企画

今回の企画の出発点の一つ。

1907年発行のテーラードジャケットを中心とした作図法を解説した本です。

他にも数冊見たのですが、こういったジャケットを当時は「Sack Coat」と呼んだようで、必ずその名で登場しています。

ジャケットでも、スーツでもなくSack Coatです。

現在も組、スーツではないジャケットをSport Coatなどとも呼んでいるので、それに近い意味合いのようです。

この本にも、丈が短くなったり、長くなったり、肩パットが入ったりなくなったり、裾がラウンドしたり、ストレートになったり、肩が広くなったり狭くなったりと、時代とともにSack Coatのトレンドも変化するとあります。

そんな中でも、守らなくてはならないのが3点。

・ゆったりとして心地よい着心地
・動きを妨げる仕上げやトリミングなどはしない事
・ポケットをたくさんつけること

と、実用着である事が協調されています。

もうひとつ、資料で1902年のシアーズローバックカタログです。

ここにもSack Coatsとして登場しています。

今回作成したジャケットにかなり近い、3つのパッチポケット、ラウンドした裾。

上で紹介したジャケットとは形がかなり異なります。

Sack Styleとも称され、素材はアルパカなどが使われています。

次に、いくつか実物を紹介していきます。

時代はぐっと新しくなって1950年代以降のものばかりだと思います。

画像はAngelicaというラベルの付いた古着でたまに見るメーカーです。

袖ぐりは折り伏せ縫い、それ以外は巻き縫いでカバーオールのような縫製。

10年ほど前にどこで手に入れたかも覚えていないのですが、確か、当時も「ラフなテーラーカラーのジャケットはないだろうか・・・」と探していたのは覚えています。

一時、ジーンズにシャツやボーダーのカットソーを着て、こういうジャケットを着るのが好きだった時もありました。

今でも縫製作業をするときなど、たまに着ます。

次は古着屋さんでは「バーバージャケット」などと呼ばれたりもする、ド派手なストライプのジャケットです。

これもぱっと見た目の柄に目が行きがちですが、ラウンドした3つパッチポケットのシンプルな形です。

ごく小さな背裏で始末がしてあり、ロックもところどころに使われています。

もう一枚、これもカバーオールのような作りのジャケットです。

フロントにリング止めの貝のチェンジボタンが使われています。

今までWorkersでは紹介してきませんでしたが、こういったワークとも、ドレスともつかないジャケット系にも興味があって少しづつ集めていました。

どれも機能性抜群なカバーオールとは違う、どこかリラックスした雰囲気の便利な服、といった印象です。

 

これら、古着の持つイメージや、先に紹介した本の中で見るようなジャケット。

さらには、実際にビンテージを見せていただいたり。

そういったイメージが頭の中で渾然一体となり、作り始めたのが今回のSack Coatです。

左は仮縫い中で、襟つけをする前の状態です。

当初、丈をかなり短いファーストサンプルを作り、それを修正するために、セカンドサンプルとの合間に行った仮縫いです。

袖丈の長さなどはこの段階でも、いろいろ検討していたようで折っています。

 

企画の意図としては、1900年代初頭を現代のわれわれが思い描くSack Coat。

カッタウェイが強く、フロントは丸みを帯び、裾のラインからラペルの返りまでがつながって見えるようなジャケットです。

これはSack Coatというよりも燕尾服のイメージもどこかに残っているのだと思います。

ビンテージも実際に見ましたが、それをそのままやってしまうとコスプレの世界になってしまいます。

そこでラペルや後ろ身頃の始末などは、より現代的にアレンジをしたりしているうちに、どこかで見たようで見たことないような、何とも言い難いSack Coatを形作っていきました。

 

型紙

型紙の特徴です。

まず後ろ身頃の中心線。センターバックでCBなどと型紙には記載されます。

グリーンの線がまっすぐおろしている線です。

それと比べると、肩甲骨のあたりで若干膨らみ、またへこんでいき、裾に向かってはあまり広がっていないのがわかると思います。

後ろ中心の縫合は巻き縫いなのであまり、曲線を強くすることは難しいのですが、その制約の中でできるだけ、体に沿いつつ、必要な運動量を確保した線を描くように勤めています。

さらにもう少し左、ちょうど牛乳を飲むときに手を当てる位置、あのあたりが一番しぼられています。

バストラインからまっすぐ糸を落としてみると、人間の体はウェストのくびれている位置が一定でないことがわかります。

一番くびれているのがこの、牛乳を飲むとき手を当てる位置。なので、二面のジャケットの場合、切り替え線をこのあたりに持ってきてシルエットを作る事が多いのです。

次はフロントです。

Lot200のときでも解説したまっすぐではない、フロントです。

ただ、Lot200は胸巾・背肩巾が狭く肩傾斜がかなり強かったため、肩周りに独特のタイトさが残りました。

あれはあれで狙いだったのですが、今回はもう少しリラックスした着心地を目指しています。

最後はポケットの付け方に関してです。

ポケット本体より、身頃に描いたつけ位置を脇側でほんの少しだけ小さくしています。わずか2-3mmなのですが。

もちろん「その程度、誤差でどうにでもなってしまう!」という意見もないではないのですが、やはり、わざわざそうしている意図を縫製する人にも伝えることが、最後の仕上がりに影響してくると私は思います。

そういう思いがあちらこちら、型紙にはコメントで書かれています。

さらに、型紙だけでは見落としもあるので、仕様書にも、サンプルに短冊状の注意点も、最後には実際に縫製する現場に行って直接そういう勘どころを伝えたりもします。

あらゆる手段を使って、作りたいイメージに近づけていく作業は何にも代えがたい、楽しい時間です。

 

 

見返し・返り分の確保

今回は、ラフな既製品の中にも、工夫が入っている例として、見返しを上げます。

いわゆる、本格的なテーラードジャケットであれば、身頃および見返しのロール部分をハ刺しと呼ばれるハンドステッチを駆使して芯を留めつけ、美しいロールを作りだしてから縫製するそうです。

実際にやっているところを見たこともありますが、それはそれはすさまじい早さでした。

また機械によって、こういった工程を再現しようとする試みもあるそうです。

当然、ワークウェアなどではこういった工程はありません。

ただ、そんな中にも、型紙の工夫でこの返り分を作る場合もあります。

それが左の画像、いわゆる「見返しの展開」という作業で、ラペルの返り線あたりで型紙を切り開き、生地の厚みによって開き分量を変えたり、また、この返り線以外にも型紙に操作をして、見返しのロールを作ろうとします。

では、今回のジャケットでそのような型紙操作をしたか・・・というと、他の方法を使いました。

それが画像の方法で、見返しの押さえステッチを行く時に、ロールをさせた状態を左手で作りだしながらステッチをかけています。

つまり、縫い終わった後、見返しをまっ平らにしてみると、わずかに返り分のユトリが浮いたようになっています。

私自身の考えとして、生地がウールなどイセ・ノバシのしやすい生地であれば、先の展開方法を取る事も考えられますが、今回の生地はほぼ綿です。

生地自体もワークウェア的な寸法があまり動かない生地です。

そういう場合にいたずらにイセや伸ばしが必要な、寸法の合わない展開をすると、問題が起きる事があります。

そこで、このような縫製によって、返り分を自然に取る事ができる方法をとりました。

いわゆるカバーオールなどでは絶対にしない方法で、こんなところにも、ぱっと見た目はカバーオールのようでありながら、できるだけジャケットの雰囲気を醸し出すための工夫がこめられているのです。

ちなみに、この方法はもともとハンドステッチ満載のテーラードを縫っていて、その後学生服に転じ、今ではジーンズから裏付きまで縫っている、御年70を超える方から教わりました。

どこまでも手をかける方法を知った上で、カジュアルの世界にも、勘どころをうまく再現する方法を知っているわけです。

私自身、洋服を単にデザインするというよりは、工場で生産するときの工程まで含めて考えることに楽しさを覚えます。

 

 

 

Lineup-ラインナップ
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Lot100 Sack Coat, Pin Check Lot101 Sack Coat, Black Twill with White Stripe

 


Detail-各部詳細

 

 

 

The Looks After one Washed
ワンウォッシュ後

 

 

 

How to make them?

 

 

 


 

Workers